焼き物始め その一

tao

2013年05月15日 22:00



たれを煮詰めている甘辛い匂いが漂っています。
鱧焼きのたれを作っているのです。

うちは、もともと、焼き物をしていませんでした。
いえ、ずっと昔は、母が炭で焼いていたのですが、店舗を改装するときに止めていたそうです。

卸売りの形態も世につれ、で、昔は室町がお昼の賄に焼き魚をたくさん注文され、それに追われていたそうです。
それが、だんだん生もの中心となり、旅館は大型化して自分で焼かれるし、うちが焼き物の卸売りをすることはなくなっていましたから。

それが、どうして、焼き物を始めることとになったのか。
きっかけは、この「たれ」です。
うちの母は、鱧焼きが好物。
好物だけに、鱧にも焼き方にもこだわりが。
買いに行ってなかったとか言われていたので、「ええ鱧なら、なんぼでも、それこそ、売るほどありますのやけどね」と、いつも言っていたのですが、ふと、母のために焼いてあげようという気になりました。
串を使わないと焼けないので、ちょっとガスコンロに装置を作り(?)たれは適当で焼いてみました。

母の感想は「うーん・・・」
自分が食べてみて「これは、鱧はええけど、たれが・・・」

店の人も同意見でしたが、うちに仕入れに来られるプロに聞いても、秘伝を教えてくださりはしないやろうと。
「あっ、あの人やったら、教えてくれはるんちゃうかな」

白羽が立ったのは、元ええ割烹の板場さんでしたが、三十代でパーキンソンを発症され、今は会社の従業員の賄をされている方でした。
さっそく、たずねたのですが
「そんなもん、焼いたらええんや」
やはり教えてはくださいません。

ところが店の人が
「いつも、奥さんに世話になってんのやろ。もうちょっと親切にしたらんかい」←(大阪の方です)
この方は仕入れに来ていても発作を起こされるので、うちでもお薬を預かっていて、発作が起こると横になってもらい、お薬を飲んでもらうのです。
そのことで恩に着せるつもりなどさらさらなかったのですが、教える気になってくれはりました。

用意するものを書き出して、店が終わってからたれを作りに来るからと言われ、作ってくださったのがなんと、バケツ一杯分のたれ!!

「どないしょ、これ」

焼いてみたけど、今度は美味しい。
流石です。
店でも焼いて出してみました。

初日一串買うて帰らはったお客さんが、翌日二串、その翌日には三串買うてくれはったんです。
これは、ええのと違うか。。。

これかうちの店で焼き物を始めたきっかけです。
大量の日本酒を煮詰めるので、母には「金喰い」と言われています、
受け売りのたれでつくるお店は多いらしく、その方々から勧められたりするようです。
安くつくし、手間いらずやて。。。

けど

そもそものきっかけが、バケツ一杯のたれからはじまり、素人の私が焼き物を始めてお客様に買っていただいけるようになったのですから、これは、できませんよね。

あれから十年。
教えてくださったパーキンソンのお客さんは、もうこちらに出てくることもできなくなられました。
でけたら、一遍、私の焼いたんを見て欲しい。
「うまいこと、焼けてるなぁ」
と言うてくれはらへやろか。

これからも、焼き物は、うちの母が食べて喜んでくれるように、買うてくれはったお客さんが喜んでくれはるように、頑張りたいて思うてます。


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